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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1843号 判決 1997年8月05日

原告

宗行政良

被告

田原辰良

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金六二万七八三七円及びこれに対する平成二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その六を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金四八八万七〇四九円及びこれに対する平成二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負った原告が、被告田原辰良(以下「被告辰良」という。)に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、被告田原雄一郎(以下「被告雄一郎」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

また、被告らの債務は、不真正連帯債務である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成二年一二月一七日午後〇時四〇分ころ

(二) 発生場所

神戸市兵庫区里山町一―二二四先路上

(三) 争いのない範囲の事故態様

原告は、原動機付自転車(神戸長に四三三六。以下「原告車両」という。)を運転し、右発生場所を南東から北西に直進していた。

他方、被告雄一郎は、普通乗用自動車(神戸五四つ五三二三。以下「被告車両」という。)を運転し、右発生場所を北西から南東に直進していた。

そして、原告車両の前面と被告車両の右前部とが正面衝突した。

2  責任原因

被告辰良は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、被告雄一郎は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の傷害、入通院期間、後遺障害

(一) 傷病名

原告は、本件事故により、右大腿骨幹部骨折、右膝蓋骨開放骨折、頭部打撲、左撓骨骨折、左舟状骨骨折の傷害を負った。

(二) 入院期間

原告は、佑康病院に、平成二年一二月一七日から同三年二月八日まで、同年三月二六日及び二七日、同四年一月二〇日から同月二五日まで、医療法人川崎病院に、平成三年六月一〇日から同月一八日まで、それぞれ入院した(入院日数合計七一日間)。

(三) 通院期間

原告は、佑康病院に、平成三年二月九日から同四年四月一五日まで通院した(実通院日数三五日)。

(四) 後遺障害

原告は、右大腿部萎縮及び手術創瘢痕の後遺障害を残して、平成四年四月一五日に症状が固定した旨の診断を受けた。

また、原告の右後遺障害は、自動車損害賠償責任保険手続において、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級五号(鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい奇形を残すもの)に該当する旨の認定を受けた。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度

2  原告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  被告ら

本件事故の発生場所は、原告が進行してきた南東から進行方向である北西に向けて、下り坂でやや右に湾曲している道路である。

原告は、原告車両で右発生場所を進行するにあたり、かなり速い速度を出していた。また、道路左側に自動車が放置されていたこともあって、道路中央よりもやや右側を通行していた。

そして、原告は、このような状態で衝突直前まで被告車両に気づかず、事故回避措置を何らとらないままに、原告車両を被告車両に正面衝突させたものである。

他方、被告雄一郎は、被告車両を時速約三〇キロメートルで運転し、道路のもっとも左寄りを走行していた。そして、衝突直前に原告車両に気づき、直ちに急制動の措置を講じたが及ばず、本件事故に至ったものである。

このような本件事故の事故態様によると、原告の過失を八割とするのが相当である。

2  原告

被告雄一郎は、被告車両を時速約四〇キロメートルで運転していたが、本件事故発生場所付近の道路は、放置自動車のため、車両等が走行することのできる部分の幅員がきわめて狭くなっており、右速度による運転は無謀運転の評価を免れない。

他方、原告は、道路左側に自動車が放置されていたため、やむなく道路中央付近を走行していたもので、かなりの速度で突然出現した被告車両になすすべもなく衝突したものである。なお、原告車両の速度はそれほど大きくはなかった。

このような本件事故の事故態様によると、被告雄一郎の過失の方がはるかに大きい。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

六  本件の口頭弁論の終結の日は平成九年七月八日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第二号証、第三号証の一、二、検甲第一ないし第九号証、乙第一号証、検乙第一ないし第一八号証、証人宗行勇の証言、被告田原雄一郎の本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故の発生場所は、北西方向と南東方向とを結ぶ幅員約三・八メートルの道路であり、原告車両が進行してきた南東方向から見てやや右に、被告車両が進行してきた北西方向から見てやや左に、湾曲している。

また、右湾曲部分の内側は草木が繁茂しており、北西方向と南東方向との相互の見通しは悪い。

そして、本件事故当時、原告車両から見て本件事故の発生場所の手前、道路左側には、車両の一部が道路にはみ出す形で、数台の車両が放置されていた。

(二) 本件事故の直前、被告車両は、右発生場所を北西から南東へ進行しようとしていた。

そして、ちょうど右湾曲部にさしかかるあたりで、被告雄一郎は、直前に対向直進してくる原告車両を認め、直ちに急制動の措置を講じたが及ばず、原告車両と被告車両とは正面衝突した。

なお、右衝突の衝撃で、原告は原告車両から投げ出され、進行方向の前方へ飛ばされて、路上に転倒した。

(三) 本件事故により、被告車両のスリップ痕が、長さ約七・九メートルにわたって、道路上に残された。

なお、右スリップ痕は、被告車両の進行方向に向かって道路の左端いっぱいの所に残されている。

(四) 被告車両はマツダボンゴワゴンであり、車両の幅は約一六九センチメートルである。

2(一)  本件事故の発生場所のように、湾曲部分があって前方の見通しの悪い道路を車両等が進行するときには、車両等は、自車及び他の交通の安全を確保するために、徐行して進行すべきである(道路交通法四二条二号。なお、ここで「徐行」とは、同法二条一項二〇号にいう「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行すること」をいう。)。

ところが、右認定のとおり、被告車両のスリップ痕は約七・九メートルにわたって残されており、その速度は時速四〇キロメートル前後であったと推認することができるから、被告雄一郎は右徐行義務に違反していたというべきである。

また、原告は、被告車両との衝突後、その衝撃で前方に投げ出されたのであるから、原告車両は右衝突時になお相当の速度を保持していたことが認められる。したがって、原告も、右徐行義務に違反していたというべきである。

(二)  車両は、道路の中央から左の部分を通行しなければならない(道路交通法一七条四項)。もとより、一定の場合には、道路の中央から右の部分にその全部又は一部をはみ出して通行することができるが、この場合も、そのはみ出し方ができるだけ少なくなるようにしなければならない(同条五項)。

ところで、前記認定の本件事故の発生場所付近の道路幅と、右発生場所に残された被告車両のスリップ痕、被告車両の幅とを照らし合わせると、原告車両と被告車両の衝突位置は、原告車両から見て、道路中央部よりも右側に寄った地点であったことは明らかである。

そして、原告車両から見て、本件事故の発生場所の手前、道路左側に、車両の一部が道路にはみ出す形で数台の車両が放置されていたことも前記認定のとおりであるが、原告車両が原動機付自転車であることを考えると、原告車両は、道路のより左側の部分を走行することができたというべきであり、これをしなかった原告車両の走行経路は、はなはだ不適当なものであった。

他方、被告車両は、道路のもっとも左端に寄って走行しており、これ以上左側を走行することは物理上不可能な状態であった。

したがって、この点については、もっぱら原告にのみ過失が認められ、被告雄一郎には過失はない。

(三)  そして、原告と被告雄一郎の両過失を対比すると、原告車両が原動機付自転車で被告車両が普通乗用自動車であることを考慮してもなお、原告の過失の方がはるかに大きいといわざるをえず、具体的には、原告の過失を七〇パーセント、被告雄一郎の過失を三〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2(原告に生じた損害額)

争点2に関し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、原告の損害として認める。

1  損害

(一) 治療費

(1) 佑康病院のうち、平成二年一二月一七日から同月末日までの分

乙第二号証、第三号証、弁論の全趣旨によると、原告が入院した佑康病院は、当初、右期間の治療費として、金九六万二〇五八円の請求をしたこと、被告らの加入する保険会社と同病院の交渉により、室料差額金二二万六六〇〇円の請求を金一五万円とすることが合意され、結局、当初の請求額より金七万六六〇〇円を減じた金八八万五四五八円がこの期間の治療費とされたこと、右治療費は右保険会社が負担したことが認められる。

したがって、この期間の治療費は金八八万五四五八円である。

(2) 佑康病院のうちその余の分

甲第四、第五号証により、自己負担分金八五万九七九七円を認めることができる。

(3) 医療法人川崎病院

甲第六号証により、自己負担分金一〇万八二二四円を認めることができる。

(4) 小計

(1)ないし(3)の合計は、金一八五万三四七九円である。

なお、甲第四ないし第六号証、乙第二号証によると、原告の治療は、平成二年一二月三一日まではいわゆる自由診療で行われ、平成三年一月一日からは健康保険扱いで行われていたことが認められる。また、原告の請求する治療費は、右金一八五万三四七九円と、平成三年一月一日分以降の治療費のうち兵庫社会保険事務所が負担した金九二万六一二九円(この金額は当事者間に争いがない。)との合計額である。

そして、健康保険の保険者が保険給付を行ったときは、保険者は、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得するから(国民健康保険法六四条一項等)、被保険者である原告の損害を算定するにあたっては、保険給付の額については、損害にも損害の填補にも算入しないのが相当である。

(二) 入院付添費

当事者間に争いがない。

(三) 入院雑費

入院一日あたり金一三〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、少なくとも、原告の請求する金額が認められる(なお、原告は、当初一日あたり金一三〇〇円、七一日分の入院雑費、合計金九万二三〇〇円を請求していたところ、後にこれを金九万二〇〇〇円に減縮訂正した。)。

(四) 通学付添費

証人宗行勇の証言によると、本件事故当時、原告は高校三年生であったこと、退院後、四〇日間にわたって、高校に通学するために家人の車による送り迎えが不可避であったことが認められる。

これによると、原告の主張する金額までは認められないものの、ガソリン代に見合う分も含め、通学付添費を一日あたり金一〇〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、四〇日間の通学付添費は金四万円となる。

(五) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、当事者間に争いのない原告の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の内容、程度、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた原告の精神的損害を慰謝するには、金三四〇万円をもってするのが相当である(うち後遺障害に相当する分は金二二〇万円。)。

(六) 小計

(一)ないし(五)の合計は、金五五一万三一五九円である。

2  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告の過失の割合を七〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金一六五万三九四七円となる(円未満切捨て。)。

計算式 5,513,159×(1-0.7)=1,653,947

3  損害の填補

被告らから原告に対して金一四万〇六五二円が支払われたこと、佑康病院の治療費のうち平成二年一二月一七日から同月末日までの分金八八万五四五八円を被告らが負担したことは当事者間に争いがない。

したがって、右合計金一〇二万六一一〇円の損害が既に填補されたものとして、原告の損害から控除されるべきであり、過失相殺後の金額から右金額を控除すると、金六二万七八三七円となる。

なお、この他に原告が損害の填補として計上する金九二万六一二九円は、原告の治療費のうち兵庫社会保険事務所が負担した金額であるが、治療費について判示したとおり、同事務所と被告ら(及びその保険会社)との間で精算がなされるべきであって、原告の損害及び損害の填補として計上するのは相当ではない。

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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